2030松崎プロジェクトの松崎高校探究学習サポート第4回目となる1年生の講義は、松崎町移住定住促進協議会会長の神(こう)さんと、静岡大学地域創造学環OGの更家さんをお招きし、神さんには「移住ついて」、更家さんには「静岡大学で取り組んだ防災の研究について」というタイトルでお話をしていただきました。
「移住ついて」
21年間勤めた株式会社電通を退職し、2021年1月に松崎町に移住した神さん。「自然豊かな場所での暮らしへの憧れ」と「美味しい地元食材をつかった飲食店経営という夢」を持っている神さんが松崎にやってきたのは、たまたまとのこと。まつざき花畑実行委員会、ミズベリング松崎、子育てあれこれ座談会といった地域の活動への参加・運営のほか、NH田んぼプロジェクト、自然の恵みをいただきますプロジェクトといった都会に住む人たち、特に子供に対し、都会では経験できない、松崎町でしか経験できないような体験を提供しています。松崎町移住定住促進協議会は、役場の人や観光協会、農家さんなど色々な人で構成されていて、リアルな移住について動画やSNSで発信しています。例えば、松崎名物冬の海からの強い西風を体験するために、あえて海岸で冬の西風に耐えてみるといった移住体験会も開催したとのことです。
少子高齢化が進む賀茂地域。人口が減ると行政サービスが行き届かかなくなる、産業が衰退して税収が減るといったたくさんの問題がおきますが、日本全体の人口が減る中で、移住者を増やすことだけで問題が解決できるのかという疑問があります。その地域に住んでいなくても、ふるさと納税、「プロボノ(専門性を持ったスタッフがボランティア的に困ってるお手伝いをすること)」としての関わり、DAOにデジタル村民として関わるなどといったことはできます。
移住はゴールではなく、とにかく町が大好きでそれを人に勧めていくことで、自分だけではできないことも、ほかの人が進めていってくれるかもしれないということで、移住定住促進協議会の会長として、生徒さんにこのようなお願いをしました。
町を知らない人に、自分の町の大好きなことをひとつでも、それが「なぜか」という理由とともに語れるようになって欲しい。
こうしたことを考えていく上で、人生の先輩である神さんから色々な場面で役立つ「なぜなぜ思考」が伝授されました。何が上手くいかないことや疑問、課題があった時に、「なぜか」ということを一回ではなく、繰り返し考えることで、解決のヒントが見えてくるというものです。このなぜなぜ思考も頭に入れながら、静岡大学の吉田先生がファシリテータとなり、自分の町の大好きなこととその理由について生徒さんどうしてグループ対話をし、その結果を全体でシェアしました。
自分の町の大好きなこと→「みんな友達、挨拶を気軽にできる」
挨拶ができると「なぜ」いいのか?→「友達を増やしやすい」
この生徒さんの発表に神さんは、移住者にとって友達を増やしやすい環境というのはとても大事なことで、実際に移住を考えている人たちからは、地域でやっていくことができるのかという不安の相談があるとのことでした。
町を好きになる人が増え、ひいては移住者が増加すればよいですが、それが叶わなくても離れていてもできるつながりがあること、そのためにも、町を知らない人に、自分の町の大好きなことを「なぜか」とともに発信ができるようにしておくことが大事であると、今回の神さんのお話から学びました。神さん、ありがとうございました。
「静岡大学で取り組んだ防災の研究について」
現在、加和太建設株式会社で活躍されている静岡大学地域創造学環OGの更家さん。「災害に対する適切なリスク認識と対応のための効果的な防災訓練の考案と検証」という研究を松崎町を調査対象地としておこない卒業論文として発表。卒業時には、学士課程成績優秀者として表彰されています。更家さんからは、なぜ静岡大学を目指し、防災訓練の効果測定についてどのような研究をしたのかというお話をいただきました。
小学校5年生の時に東日本大震災が発生し、その時にテレビから流れる津波の映像で、初めて津波の災害の恐ろしさを知った更家さん。中学・高校時代の学校での机の下に隠れて校庭に移動するだけの防災訓練で、本当に地震が来た時に命を守れるのかどうかということに疑問を感じていたそうです。効果のある防災訓練とは何かを考えていたところ、そうしたことを静岡大学の地域創造学環「地域環境・防災コース」で専門的に学ぶことができることを知り、入学。どのような防災訓練を経験することが、災害への対応に効果的であるかを研究しました。
具体的には、松崎町の避難訓練の重要性が高い地域を調査地とし、考案・検証するため
1自宅からから自分の地域の避難場所まで移動する「津波避難訓練」の実施
2更家さんが講師となり、地域の津波浸水想定図の提示や津波の実験動画の視聴、プラスチックの水筒の中に懐中電灯・常備薬・羊羹などを入れた「防災ボトル」の実物提示といった「防災講座」を実施し、受講してもらう
3実際に地域に出て、危険個所を考えたり、土地の成り立ちや地質ついて小山先生(静岡大学防災センター)が教えたり、津波避難タワーの概要を説明しながら歩く「防災まち歩き」への参加
この3つをそれぞれ、1のみ、1+2、1+2+3をおこなった人で、津波のリスク、避難開始タイミング、避難路のリスク認知といったことを調査し、比較します。効果を見たいことから、防災訓練の前と訓練やった直後、防災訓練の効果の持続を見るために1ヶ月半後の計3回アンケートを取りました。
結果として、防災講座の受講が災害リスクの適切な認知につながり、防災まち歩きが適切な対策行動に結/びつくことが分かりました。災害リスクを知り、自分の地域を歩きながら理解を深めることが、リスク認知と適切な対策行動につながるということです。また、出かけた先でも今ここで地震が来たらどう逃げるか、これはローリングストックに使えそうだとか、日常の中に防災の考え方を入れるといざというときに役に立つとのことでした。
更家さんは防災という分野に興味を持ち、大学に入学して、深掘りして学ぶことがとても楽しかったという経験から、生徒さんに対し、高校3年間の間で、何か興味のあることを見つけたら深掘りすることで、もっと知りたくなり、それが大学や仕事での学びにつながっていくと思うので、興味あることを見つけることを大事にしてほしいというメッセージを最後に送りました。
更家さんには当初、8/30に講師をしていただく予定でしたが、台風の接近にともなう授業の中止により9/6に変更。移住と防災というジャンルの違う話になりましたが、終了後に神さんから、松崎町への移住を考える人から津波防災について聞かれることがあるのとのことで、移住ツアーに防災まち歩きを組み込めたら、という提案がありました。
南海トラフ地震への備えについて、再度考え直していかなければならないという時ですので、2030松崎プロジェクトのイベントでもぜひ更家さんに、防災講座をお願いしたいなと思いました。