20240218 松崎町に残された歴史文化遺産の活用に関するワークショップ

ポスターを見ながら教え、教えられ、学びの深い時間となりました。

松崎町エコツーリズムサステナブルツーリズムを展開していくことを目的に活動をおこなうツーリズムチーム。歴史・産業・健康・体験などをコンテンツとする20のコースを設定し、今年度は、各コースを実踏し現状把握をおこなってきました。
昨年度、松崎町内に残された「古道」の理解を深めるために松崎の歴史を巡る座談会を開催。

matsuzaki2030-blog.hatenablog.com今年度は静岡大学考古学研究室の学生たちとともに現地確認をおこないました。その成果として、昨年11月に静岡大学のキャンパスフェスタでポスター展示「第50回考古展 松崎町に残されている古道について」を開催。今回、静岡大学キャンパスミュージアムの「お出かけキャンパスミュージアム」企画として、このポスター展示を囲みながら、松崎町に残された歴史文化遺産の活用を模索する意見交換会(ワークショップ)を開催しました。

奥に写るポスターは町に寄贈、活用の仕方をみんなで考えましょう!

流れは
1 ツーリズムチームのこれまでの実踏報告と今後に向けて:渡辺攻さん
2 文化財を活かした地域づくり・静岡県でのとりくみ:静岡県スポーツ文化観光部文化財課 菊池吉修さん  
3 松崎町の山中に残された古い道・その歴史文化遺産としての価値を探る:静岡大学人文社会科学部社会学科考古学分野3年生
4 ポスター展示の見学・意見交換
5 質疑応答、感想など
司会、およびファシリテータは考古学を専門としている静岡大学人文社会科学部の山岡先生が務めました。

 

ツーリズムチームのこれまでの実踏報告と今後に向けて

ツーリズムチームのコース踏査につきましては、これまでのブログに掲載しておりいます。一例として
富士山展望コース実踏

matsuzaki2030-blog.hatenablog.com

密教の聖地コース実踏

matsuzaki2030-blog.hatenablog.com

などがあります。ぜひご覧ください。

今年度未実踏のコースとしては、大池ロングコース、クワオルトコースなどがあります。大池ロングコースは、棚田に水を引くために深く削り取られた「掘割」といったダイナミックな景観を見ることができるコース。クワオルトとは「療養地」という意味で、健康のためのウォーキングを岩科川沿いや那賀川沿いでおこなうものです。
実踏した池代のわさびツアーについては、伊豆半島ジオガイド協会と賀茂農林事務局さん主催でツアー商品として販売されました。
計画したコースを1枚の地図にまとめたものに仕上げていきたいのと、踏査したコースをいかにツアーにしていくかを考えていかなければならないとのことでした。
町の方からは、「面白い」ものでないと人が集まらない。例えば、松崎は縄文の遺跡がたくさんあるので、縄文時代を子どもたちが体験できるような臨海学校を作りたいという提案がありました。

文化財を活かした地域づくり・静岡県でのとりくみ

文化財課の菊池様は、松崎町と同じく賀茂地域の東伊豆町出身。はじめに、文化財保護の基本的な考え方として、保存と活用があるが、今までは保存に力を入れており、これからは活用に力を入れていくということでした。
これまでは文化財はそれぞれの「点」として活用していましたが、「群」「面」として活用することで、地域の活性化につなげていくことが期待されます。松崎ならば例えば「空海」「職人」といった文化財を核とした面での展開が考えられるのではとの提案がありました。
県としては、支援員の養成といった人材育成、「しずおか遺産」といった認定制度、各種イベントの開催、情報発信などで、文化財の保護に取り組んでいるとのことです。
文化財を活かした地域づくりは、ハード面では文化財の修理や整備のほか、街並みの色彩計画、交通手段、休憩場所、お手洗いといった周辺整備も必要。ソフト面ではガイドさんや文化財を後世に伝える技術者といった人材のほかに商品化といった地域の産業との結びつきが重要であるとのこと。文化財には学術的に評価された本質的価値と、時代の変化によって変わる社会的価値がありますが、地元の人が価値を見出し、残そうという意識がないと社会的価値が衰退してしまうとのことでした。
目指す姿は、文化財を活用したまちづくりが地域で自走でき、住民と行政で連携して取り組んでいくこと、ということで、地域の文化や歴史を守り、活用することが地域づくりにつながるという貴重なお話をいただきました。

松崎町の山中に残された古い道・その歴史文化遺産としての価値を探る

今回、古道の調査・研究とポスターの製作をした7名の学生さんが参加をしましたが、代表して2人の学生さんにが発表をおこないました。
冒頭の説明のとおり、古道の勉強会や現地確認、ツーリズムチームの方からの聞き取り、文献調査などを踏まえ、松崎町の古道マップを作成。それを元に時代を遡って説明していきます。

近世は、炭や「かや」を山中からふもとに運ぶ生活道。荷をそりに載せて運ぶための「そり道」も確認できる。伊豆炭が江戸に出荷されていたことから、近現代と同様の古道利用がされていたと考えられる。
近代にいたるまで馬や牛が使われており、馬頭観音が古道の始まりや分岐点に存在している。当時からそこに馬や牛が通る道があったことの証拠となる。馬頭観音に刻まれた年より、少なくとも1800年にこの地に古道が存在していたことの証拠になる。

中世は、松崎町では数多くの神社棟札(寺社・民家などの建物の建築の記録を記したもの)史料が残っており、寺社を中心として結合する村落の様子が分かる。おおよそ現在の行政区画内に寺社が1つ以上分布しており、山を挟んだ地域をつなぐように古道が通っていることが確認できる。

古代においては、富貴野山宝蔵院と2つの郡家(郡衙律令制度の下、郡の官人が政務を執った役所)那賀郡家、賀茂郡家があったことが想定され、郡家を結ぶ官道があった可能性がある。古代における官道の特徴として挙げられる区間単位で直進性が高いという点で当てはまる。
古代の古道は構築方法による分類ができ、地形によって採用される工法が異なる。点群データを利用し、断面図で見るとはっきりとその構造が分かる。
まとめとして、歴史文化遺産としての古道は、棟札や聞き取り調査、点群データの活用といった、考古学としてだけでなく民俗学や地理学にもまたがる研究対象。古道について遡って考えることで町の歴史が見えてくる。歴史文化資産としての価値が高く、観光資源としても活用できるのではないかということでした。

学生さんの活用している点群データとは、3次元座標値と色の情報から構成されているデータであり、その活用については静岡大学未来社会デザイン機構の小山先生の講義を受けたとのこと。松崎プロジェクトでも小山先生を講師に迎え勉強会を開催しました。

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考古学分野の3年生2人が代表して発表

ポスター展示の見学・意見交換

  • 古代社会と伊豆・松崎
  • 古代の道
  • 中世社会と伊豆・松崎
  • 近世の伊豆・松崎
  • 古道と馬頭観音
  • 近・現代の里山と古道の利用
  • 点群データで見る松崎の古道

という研究についてのポスターの前で、それぞれその研究をおこなった学生さんが説明をしたり、質問に答えたりしました。先生方や地域の自然・歴史に詳しい町の方の説明も加わり、お互いが教え合う、とてもよい時間でした。
このポスターですが、松崎町に寄贈されるとのこと、どのような活用法があるかも模索したいとのことでした。図書館のある建物にに常設展示できるかもという嬉しいご提案が町からありました。

質疑応答、感想など

まず山岡先生より「中学高校の歴史教育の中で古道といった歴史文化遺産を組み込めないか」という問いがありました。松崎町には文化財専門の職員がいないということで、提案として、地域の歴史に興味を持つ若い世代を大学で専門的な知識を学ぶトレーニングをし、町に公務員として戻ってくるという形が理想であるとのことから、町の歴史に若い世代が興味を持つにはどうしたらよいか?という話になりました。また、中高の教育にこうしたポスターの内容はいかせるのか、また同じような研究はできるのものか?という質問がありました。

皆さんの回答

総合学習、探究学習にどういかせるか。地域のことを学ぶ中で、今日の内容がいかせるのではないか。中高生では文献を読みこむのは難しい。ある程度は先生が資料を提示する必要があり、地域の歴史に詳しい人と学校の連携が必要となる。
ある程度の情報はネットで調べることができる。地域の人に話を聞くことで知らないことを知る楽しさがある。例えば、「なまこ壁」は知っていても、作り方はまでは知らなかった。(大学生)

松崎の歴史が、中学高校で学ぶ歴史と結びつく、例えば江戸と松崎の関係を結びつけるといったことでリアリティが出て興味を持つことができるのでは?(大学教員)

子どもが興味を持つ前段として、先生に興味を持ってほしい。特に高校の先生は地元ではない人が多く、部活などにも忙しくて、地元を知る時間がない。松崎町では「先生大集合」という幼稚園から高校の先生が一堂に会するイベントを昨年開催し、地元の方の案内で高通山、富貴野山宝蔵院にフィールドワークに行った。今年も開催するので、このイベントを通して、町を好きになってほしい。(町内教育関係者)

アーカイブとしても研究の成果を書籍にするといった発信をすることで、広く一般に知ってもらうことができる。ポスターについても中高生だけでなく、小学生にも分かるような形で解説をしたものがあるとよい。町の中で若い世代のガイドの後継者を育成することでツーリズムが拡大すると思う。(大学教員)

また、ガイドの育成という点から、ガイドをすることと、地域の歴史文化に興味を持つことは別?という問いがありました。

これについては、サステナブルという点から考えると、ガイドをするのがガイドでなくも良い。観光客にとっては「○○でこういう写真が撮れますよ」といった地域の人とコミュニケーションから得る情報が貴重。熊本県の「フットパス(地域に残るありのままの風景を楽しみながら歩く)」のコースの取り組みが参考になるのではという提案がありました。

最後に、このポスターは「種」、これから活用していくことが大事。住民に知らせるお披露目会をぜひ開催したい、とツーリズムチームの代表である渡辺攻さんが締めくくりました。よい活用方法がありましたら教えていただけると嬉しいです。

学生さんが富貴山の踏査中に全身の形が分かるシカの骨に遭遇、洗浄して標本にしたとのこと。